しかし数学での基本問題と、物理や化学の基本問題とでは明らかに程度が異なってきます。
以前東京大学が1990年の試験で、三角関数の加法定理の証明を出題したことをこちらで書きました。その記事でも書いていますが「東大がこのような”教科書にそのまま証明が書いてある”ような内容をそのまま出すなんて!」と話題になったのです。しかし今年の入試問題を見てみると、物理の試験にて「ホイヘンスの原理による”反射の法則”の証明」が出題されています。これもはっきり言って、どの教科書にでも書いてあることだと思います。
またうちの受験生の受けた熊本大学では、物理で「気体分子の運動論」の内容がそのまま出題されていました。こういう問題は、勉強する受験生の意識一つで「難しい問題」になるのか、または「楽勝の問題」になるのかが決まります。ただしどちらにしろ、特別な参考書で無いと理解出来ない・・・なんてことは無く、教科書に出てきている内容がそのまま出題されているのです。
つまり数学の方が、教科書そのままの勉強ではあまり役に立たないのではないか・・・と推測されるのです。
例えば広島大学の問題で、正三角形をメインにした数学の問題が出題されていました。
座標平面上の2点A(0,1),B(t,0)を考える。ただし、t≧0とする。次の問に答えよ。
(1)線分ABを1辺とする正三角形は2つある。それぞれの正三角形について、2点A,B以外の頂点の座標をtを用いて表せ。
(2)(3) 略
私は真っ先に、点Aを原点に平行移動させることを考えました。そうしたら、正三角形のもう一つの頂点は「点B(を平行移動したもの)を原点を中心に±π/3だけ回転」させればいいですからね。後は回転行列で計算し、最後にy軸に対する平行移動をしてやれば、すんなりと答えが導けます。
しかし学校の教科書などで書いてある説明では、せいぜい「原点を中心に角θだけ回転をさせる一次変換を表す行列」が載っている程度です。そこで、①頂点の一つを原点に平行移動させることで、原点中心の回転を考えればいいことになる、②正三角形の頂点同士は±π/3だけ回転させた関係にある、ということを見抜かないといけないのですね。・・・ほら、同じ基本問題でもこれほどまで内容が異なってしまうんです。
中には「数学の方だけ難しい問題を選んでいるんじゃないの?」と感じる方もいるかも知れません。しかしこの問題は大問題の中の(1)の問題なのです。この問題が(3)まで存在していることを考えれば、この問題はある程度基本的なものであり、残りの問題の解答に力を注がないといけないのですね。つまりはこの問題は、”基本問題”として処理しなければいけなくなるのです。
では比較をしている物理の問題はどうなのか。分子運動論であったり、ホイヘンスの原理であるというものは、なかなか受験生が苦手とする分野となっています。ただし教科書と見比べてもらえれば分かります。「教科書の内容そのまま」ですから。
そこでこのような問題が解けない人は、自然と勉強の方針を誤ってしまっていた可能性が高い。すなわち、物理を数学のように「成立している関係式を公式のように見る」ことで、当面の計算問題を処理してきたのではないかと感じるのです。物理で本当に必要なのは、結果の関係式ではありません。むしろ数学以上に、関係成立の証明や理屈の部分を押さえる必要があるのです。
この点を押さえて勉強すれば、物理の点数はどんどん伸びます。だから改めて思うのです、「やはり数学の方が難しいのかなぁ」と。
私自身は数学を専門にしており、また現役時代は物理で苦しめられた一人なので、どうしても数学より物理の方が難しく感じてしまいます。だから今後受験生となる1~2年生の方に伝えておきたい。
「物理は理解すべきポイントさえ間違えなかったら、ちゃんと乗り越えられますよ!」
もちろんこれは、化学も同様です。そこでぜひ、理科系科目で差を付けたいという方は、勉強のポイントを見なおして下さい。今年の受験生は後期試験に向けて。また来年以降に受験生となる人にとっては、このポイントを掴めるかどうかで受験勉強のやりやすさが大きく変わります。
ということで、少しでもお役に立てられるよう、これからも頑張っていこうこと思います。